
ちょっとお休み頂いて、北海道へ行ってきました。以前から行きたいと思いつつなかなか行けずにいた釧路湿原へ!写真はカヌー上からの景色。このカヌーがもう病みつきになりそうなくらい気持ちよくて、絶対にまた行きたい場所認定。次は緑が濃い時期に行くぞ、と心に決めたのでした。
う~ん、やっぱり旅はサイコー!
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さて、今日の本は、川上弘美の「神様」です。
内容紹介
くまにさそわれて散歩に出る。川原に行くのである―四季おりおりに現れる、不思議な“生き物”たちとのふれあいと別れ。心がぽかぽかとあたたまり、なぜだか少し泣けてくる、うららでせつない九つの物語。デビュー作「神様」収録。ドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞受賞。
※「BOOK」データベースより
旅の友はやっぱり本!
今回選んだこの本は、大正解の一冊でした。
「くまにさそわれて散歩に出る。」という一節から始まる、
著者のデビュー作、『神様』。
しょっぱなからいきなりほのぼのとした
シュールな世界に引き込まれる。
旅という、ちょっとした非日常の中で、
読み進むうち、なんだか夢の中に迷い込んだような
不思議な浮遊感に包まれる。
人の言葉を話すくま --- 「神様」
梨につきものの白い生き物 --- 「夏休み」
時々現れる5年前に死んだ叔父 --- 「花野」
愛恋の相談にやってきた河童 --- 「河童玉」
壺から出てくるちょっと変な美女 --- 「クリスマス」
家庭の事情に悩む少年、えび男くん --- 「星の光は昔の光」
雪の季節にだけ現れる男、のような何か --- 「春立つ」
人を虜にする人魚 --- 「離さない」
ふたたびくまと散歩へ --- 「草上の昼食」
いずれも時にほのぼのと、時に薄ら寒く
奇妙な者たちとの交流を描いているけれど、
それらの存在はなぜかあくまでも自然。
そのうち、「散歩にでもまいりませんか?」
などと言って、くまが目の前に現れても、
それほど驚かないのではないか、とさえ思えてくる。
いや、北海道で熊って、ちょっとシャレになんないんだけどさ。
でも、そんな現実とすぐ隣り合わせに存在していそうな
奇妙なんだけれどなんだか身近に感じられる短編たち。
全体を包む空気はほのぼのというのか、
うららかとでもいうのか、柔らかいのにもかかわらず、
なぜかその感触はひんやりとしている。
川上作品を読むといつも「温度が低い」と
私は感じるのだけれど、この初期作品集も
多分に漏れず、「やわらかい」のに「あったかく」はないという、
絶妙なバランスが個人的には好きだ。
しゃべるくま、といって、決して童話チックではなく、
根底に漂う淋しさや違和感、どこか現実とズレた
ひずみがそこかしこに漂っているあたりが、
ただの夢物語のようでいて、決してそれだけで終わらない
大人の読み物だなぁ、と感じさせる。
個人的には「夏休み」の梨の精のような
生き物(?)の話が好き。
引っ込み思案でダメなことだらけの一匹が
なんともかわいらしく、なのになぜかとても
淋しい余韻を残す一編となっている。
「ぼくだめなのよ」
「ぼくいろいろだめなの」
「だって梨食べちゃうと梨なくなっちゃうのがだめなのよ」
「動くとぼくが減っちゃうのがだめ」
「時間がきてまっくらになっちゃうのがだめ」
「もっと時間がたつと明るく変わるのもだめ」.....
掌サイズの白い毛の生えた小動物に
こんな風に訴えられたら、と思うと、
なんだか胸が締め付けられるくらいの愛おしさがこみ上げる。
(まぁ、現実にいたらうっとおしいだけかもしれないけど。)
こんなかわいらしさがたっぷりありつつも
最後にはどことなく切なさを残す作品たち。
始まりがくまとの初めての散歩で、
最後がくまとの(おそらくは)最後の散歩、
という構成も、とくに繋がりのない短編達を
閉じた環の中に収めるような効果をもたらしている。
なんとなく選んだ本なのに、
旅の始まりから終わりまで、のように感じて
最後には不思議なリンクを感じながら読み終えた。
旅は一期一会。
本もまた一期一会。
そんな気分に浸った一冊でした。
神様
川上 弘美
★★★★★

文庫:203ページ
中央公論新社 (2001/10)
¥480
関連サイト
川上弘美:東京日記
http://webheibon.jp/blog/tokyo/
作家の読書道:第7回 川上 弘美さん
http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi07.html
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追記: カヌーから見た釧路川、そして釧路湿原を、もう少しだけおすそわけです。

出発進行!

まだ柳が芽吹きはじめたばかり

水の流れと鳥の声以外の音は存在しない至福の世界。

こういう木のない草原地帯は実はほとんどがヤチマナコ(底なし沼)

春は雪解け水などで増水するらしい。木々も半分水没状態。でもたくましく生きている。

今はつかわれていない大正時代に建てられた水門

展望台から