シアトルで毎年夏に開催されていた
Blue Angelsの航空ショー。本番は戦闘機の爆音も見どころの一つだけれど、本番前の数日はリハーサルの音が凄まじくて、こんなのが日常茶飯事の沖縄の人達はそりゃ大変だ、としみじみ思ったりした。お祭り感覚で気軽に見物に行っていたけれど、このイベントって要するに海軍の広報活動なんだよね。そう思うと複雑な気がしなくもない。でも近くで見る戦闘機はやっぱりカッコいいのだった。
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さて、今日の本は百田尚樹の「永遠の0」です。
内容紹介
「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる―。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。涙を流さずにはいられない、男の絆、家族の絆。
※「BOOK」データベースより
戦争、それも特攻隊をテーマに描かれた作品ということで、
良いという評判はきいていたけれど、重そうだし、と
敬遠していたんだけれど、重い腰を上げて本当に良かった。
当時の戦況や軍部の体制、実在の軍人、
戦闘機や兵器、そして戦闘シーンなど、
膨大な資料を集めて描かれたことは間違いがない
読み応えのあるディテールが詰まっていながら、
不思議なくらい読みやすくて、太平洋戦争について
(恥ずかしながら)そんなに詳しくない私でも
問題なく読むことができた。
家族のために必ず生きて帰る。
天才的な腕を持つパイロットでありながら、
「死」を尊び美化する風潮の中で、
生きることを説き、貫こうとした宮部。
そんな彼のことを臆病者と蔑む者、
憎しみを抱くほどに羨望する者、あるいは、
この人のためなら死んでもいい、と慕う者。
戦場で共に過ごした人々から祖父の話を聞くうちに、
健太郎はそれまで知らなかった、
戦争経験者から見た太平洋戦争の姿、
そして祖父にまつわる意外な事実を知っていく。
基本的にこの本は太平洋戦争について
最低限のことしか知らない若い世代に向けて
書かれたもののような印象を受けた。
その分、歴史的背景については分かりやすく
描かれていて読み易い半面、
この戦争、とりわけ特攻隊についての誤った認識を
覆すためにあえて伏線として敷かれた、若干極端だと
思えるような表現が多いことが個人的には気になった。
例えば特攻隊のことを自爆テロと同一視する考えが
最近の日本にあるのかどうか、私は知らない。
でももし本当にそんな風に捉える風潮があるのなら、
確かにこれは多くの人に読まれるべき本なのだろう。
とはいえ、これは決して過去の戦争を美化したり、
そこで亡くなった人々を英雄視するような小説ではない。
亡くなった人々の犠牲は尊いものだけれど、
悲しいことに、特攻で命を失った人々は
明らかに無駄死にだったと語る元特攻隊員の
言葉からもそれはうかがえる。
でも、だからこそ、読み進むうち、
戦況が絶望的となっていくにつれて、行き場のない
怒りと悲しみがふつふつと湧き起こってくる。
そして「何故?」という疑問がどんどん膨らんでいく。
いったい誰が何のためにこんなにも多くの命を
こんなにも軽々しく、まるで使い捨ての部品のように
死へと追い込んでいったのか?
何故、誰もそれを止めることが出来なかったのか?
どんなに考えても私なんかに分かるはずもない。
でも、その事実がただただ悔しくて、途中から
怒りなのか悲しみなのか、よく分からない
涙が込み上げてきて止まらなくなった。
「なによりも命が大切」と言う宮部の考えは
現代を生きる私達にはごくごく当たり前のことだ。
そんな当たり前のことが当たり前ではなかった時代。
きっと誰もが「死にたくない」と思っていても
口にはできなかった時代に、ただ一人、
それを明言し、なかば強制であった
特攻への志願を拒否していた彼が、
周囲に「臆病者」と映っていたという皮肉。
そして、そんな彼がなぜ最後には
特攻で命を落とすことになったのか。
最後の最後まで、その理由は明言されることはない。
けれど、特攻隊員として死ぬためだけに
飛行訓練を重ねる若い生徒達に教官として接し、
その彼らを最期まで護衛する任務に就いて
あまりにも多くの死を目にし続けた彼が、
ついに疲れ果てた、ともとれなくはない。
けれど、最後に自分が生き残りのクジを
引いたことを悟った宮部が、命がけで自分を救ってくれた青年に、
自分のような絶望を知らない、まだ綺麗な目をした彼に、
最後の希望を託そうとしたのかもしれない、と
私はそんな風に思うのだ。
だからこそ、なんの迷いもなく、あれほど見事に
敵艦に向かって突っ込んでいけたのかもしれない、と。
でもね。
それでも、やっぱり私は宮部には生き延びて欲しかったと思う。
小説としては、そりゃあまぁ様にならないし、
プロットも活きてこないのは百も承知だけれど、
それでも、彼には最後まで信念を貫いてほしかった。
卑怯でも、みっともなくても、
自分の代わりの青年ではなく、自分自身の手で、
家族を守って欲しかったなぁ、と思うのは、
私が女だから、なのか。
エンタメとしても良く出来た小説だとは思うものの、
最後の方、宮部の妻がやくざ者に助けられる
エピソードはさすがに too much
な感じがして正直少し白けたのも事実。
そして、祖父について調べていくことになる
主人公の健太郎をはじめとした現代の登場人物の
描かれ方が、過去の人々に比べて、あまりに
薄っぺらいのも残念だった。
でもそれを差し引いても、
間違いなく読む価値ありの小説です。
特に太平洋戦争について、よく知らない、
あるいは特に興味がない、という若い人には
入門編としては、とっつきやすく、それでいて
十分な重厚感がある、抜群によく出来た小説だと思う。
さらに、単なる戦争小説としてだけではなく、
例えば会社組織などで人を「使い捨ての部品」のように
扱う労働環境など、ほんの少しではあるけれど、
現代社会に置き換えてみても、
考えさせられる部分があるようにも思った。
百田 尚樹
永遠の0
★★★★★
文庫:608ページ
講談社 (2009/7/15)
¥920
関連サイト
作家の読書道 第107回:百田尚樹さん - WEB本の雑誌
http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi107_hyakuta/
書評】『永遠の0』百田尚樹 - 横丁カフェ|WEB本の雑誌
http://www.webdoku.jp/cafe/saeki/20100701104559.html
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