イマイチ、と言われていても、今年の紅葉だってこのくらいは頑張ってるぞ~、という気持ちで、紅葉の写真をもう一枚(笑)。
そろそろ冬本番に差し掛かる頃ですが、来週は物好きにも寒い所へ出掛ける予定。でも温泉があるから嬉しいかも♪
冬は寒さを楽しまなくては!って前向きなんだか単なるMなんだか...
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さて、今日の本は貴志祐介の「青の炎」です。
内容紹介
櫛森秀一は、湘南の高校に通う十七歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が現れた。母が十年前、再婚しすぐに別れた男、曾根だった。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを…。完全犯罪に挑む少年の孤独な戦い。その哀切な心象風景を精妙な筆致で描き上げた、日本ミステリー史に残る感動の名作。
※「BOOK」データベースより
映画化もされて、話題になっていた作品。
実はあまり興味がなかったんだけれど、
テレビで放送しているのを、適当に流し見ていて、
ちょっと気になる台詞があり、それを確かめたくて手にした本。
本を読んでみて、こういう話だったのか、
と、良い意味で意外に思った本でした。
「悲しい殺人者の物語」的なうたい文句が
あったように記憶しているけれど、
これは、「家族を守るために殺人を
犯すしかなかった悲しい少年」という
意味だと思っていた。
確かにそうともとれなくはない。
けれど、最後まで読んでみると、本当の悲しさは
そこではないところにあったのだと気付く。
母と妹との穏やかな3人暮らしの櫛森家に
現れた、母の元夫、曾根。
櫛森家に居座り、傍若無人に振舞う曾根から、
母と妹を守るために、彼は曾根の殺害を計画し始める。
確かに曾根という男はろくでもない人間である。
殺してやりたくなる気持ちは分からないでもない。
けれど、しょっぱなから感じた違和感はやはり、
秀一が、まず曾根の抹殺ありきで
全てを解決しようとしていることだった。
曾根を殺すことを、『強制終了』と呼び、
その計画を『ブリッツ』と名付け、
まるでゲームか何かのように完全犯罪を企む
彼の姿には、正直「殺すしかなかった」
という悲しい切実さがあまり感じられないのだ。
さらに第2の事件に関して言えば、
どこをどう見ても利己的で、
秀一に同情の余地などないと私は思う。
著者は実は、秀一を「殺すしかなかった」
悲しい殺人者として描いたわけではないのではないか、
と、途中からそんな気がし始めた。
けれど、別の意味で「悲しい殺人者」であることは
間違いないのだということに、
後半に差し掛かったあたりで気付き始める。
後半になって顕著に見えてくるのが、
秀一という少年の、その「ちぐはぐさ」。
進学校に通い、学校でも優等生で、
友人にも恵まれている秀一。
多くは語られていないけれど、女子生徒からも
多分人気のある男子生徒なのだろう。
それ故に、かなりの傲慢さを持つけれど、
友人たちには、それをうまく隠している
(と少なくとも本人は思っている)。
確かに、頭の切れる子であるのは間違いない。
行動力もあり、度胸も座っていると思われる。
さらに、現代っ子の彼はネットなどの
情報収集能力にも長けている。
殺害方法を考えたり、不法な薬物の入手も
その情報収集能力を駆使して、
なんなくやり遂げてしまう。
けれどそれに反して、彼の情操面は相当に幼い。
本人は理屈でなんでも理解しているつもりでいるけれど、
人の感情や思いをきちんとつかみきれていない。
本好きの私が言うのもなんだけれど、
本やネットで得た知識だけでは、人の心を
推しはかることなんて絶対に出来はしない。
情報過多な現代社会の中で、
必要以上に頭でっかちになってしまった少年の、
成長しきれていない精神面。
その知識だけで固められた張りぼてのような
大人っぽさが、後半、どんどんはがれていくにつれて、
読者はたまらなく悲しい気持ちになっていく。
そのことに本人はもとより、大人達、
せめて母親がもっとちゃんと気付いていれば、
こんな悲劇は起こらずにすんだだろうに、
と思うとやり切れない気持ちになる。
秀一が見下していた友人達、
さらには、被保護者だと思っている妹でさえ、
ある意味、彼よりずっと大人である。
本当に守られるべき存在は母や妹ではなく、
秀一の方であったのに、本人を含め
周囲の誰もが手遅れになるまでそのことに
気付けなかったことが悲しい。
そして、追い詰められた秀一が最後に下す決断。
一見、優しくも悲しい決断かのように思えるけれど、
これもまた、彼の未熟さゆえの浅はかさに
思えるのは私だけだろうか?
これは母が一番望まない選択のはずだから。
そして、重い十字架を託される形になった
紀子があまりにも可哀想だ。
この本は、幅広い年齢層に
支持されているのではないかと思う。
主体はミステリーでありながら、
若い人にとっては、共感を呼ぶ
悲しい青春ストーリーになり得るし、
大人目線で読めば、少年の未熟さゆえの
悲しさに胸が詰まる小説になるんじゃないかと思う。
そして、完全犯罪を企む殺人者を描いた
作品であるにもかかわらず、
なにより、湘南~鎌倉の情景の美しさが
その悲しさを際立たせているのが、
なんとも印象的な小説でした。
最後には、悲しさと綺麗な風景が溶け合うような、
不思議とそんな儚い印象だけが残った。
青の炎
貴志 祐介
★★★★☆
単行本:495ページ
角川書店 (2002/10)
¥700
関連サイト
作家の読書道:第77回 貴志祐介さん
http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi77.html
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