庭の切り株に、さるのこしかけが生えてきた。木が朽ちてきた証拠ですね。コフキサルノコシカケではないかと思うのだけど、よくは分からない。木みたいに硬いんだけど茸なんだよね、これ。
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さて、今日の本は、伊坂幸太郎の「マリアビートル」です。
久々に伊坂幸太郎らしい小説を読んだ感じがします。
内容紹介
元殺し屋の「木村」は、幼い息子に重傷を負わせた相手に復讐するため、
東京発盛岡行きの東北新幹線“はやて”に乗り込む。狡猾な中学生「王子」。
腕利きの二人組「蜜柑」&「檸檬」。ツキのない殺し屋「七尾」。彼らも
それぞれの思惑のもとに同じ新幹線に乗り込み―物騒な奴らが再びやって
来た。『グラスホッパー』に続く、殺し屋たちの狂想曲。3年ぶりの書き
下ろし長編。
※「BOOK」データベースより
思ったより、「
グラスホッパー」の登場人物が登場(名前だけの人が多いけど)してました。鈴木がこんなに登場するとは意外な気もしたけれど、「グラスホッパー」の疑問も解けたし、彼の無事も分かりなんだかほっとしました。友情出演のような槿もなかなかニクイ。
そんなおまけ的なことはともかく。
主人公は、不運をしょって歩くようなツキのない殺し屋「天道虫」こと七尾。コードネームが天道虫というところからして、弱っちそう... と思うくらい、全く殺し屋っぽくない彼が、東北新幹線の中からある荷物を奪って上野駅で降りる、というシンプルな(はずの)任務で新幹線に乗り込む。ところが、同じ新幹線に、息子の復讐のため中学生の王子を追ってきた元殺し屋、とある東北の大物の息子を救出した殺し屋コンビ、その他、それぞれの思惑で同じ新幹線に乗り込んできた殺し屋達がいたせいで、予想外のとんでもない騒動となっていく。東京駅から盛岡まで、新幹線を舞台に繰り広げられる殺し屋達の暗躍(?)。
とっても伊坂幸太郎らしい登場人物やプロットが満載で、ある意味懐かしくさえ感じた。「グラスホッパー」の関連作品とはいえ、雰囲気は少し異なり、「ラッシュライフ」のようなドタバタ感が強い。「グラスホッパー」より以前の伊坂幸太郎っぽい作品、という感じがした。
登場人物も皆個性的で、とても伊坂っぽくて魅力的だし、話の筋は、まぁ、ある程度読める、といえば読めるのだけれど、読後感も爽快。
殺し屋の物語なのに(いや、むしろ、だから、なのか)「なぜ人を殺してはいけないのか」という、テーマ性を持たせようとしているようにも思えるけれど、あまり小難しく考える必要もなく軽快に読める内容。
この作品では、現代の殺し屋達が立ち回りを演じるのだけれど、「グラスホッパー」の登場人物のような「一昔前」の殺し屋達の逸話が多く登場する。そのどれもが敬意に満ちており「かつての『業界』」についてのロマンチシズムが感じられるのも面白い。「グラスホッパー」からほんの10年も経っていないのに、彼らはある種伝説化していたりして、この「業界」の入れ替わりの早さがうかがえる。ま、死亡率も離職率も高そうだもんね、この業界。
最後の方、槿がタイトル「マリアビートル(てんとう虫)」について語るシーンが私は好きだ。
あの小さな虫が、帆の中の悲しみを黒い斑点に置き換え、鮮やかな赤の背中に
そっと乗せ、葉や花の突端まで昇っていくのだ、と言われれば、そのような健気
さを感じることはできた。(中略)
... 一呼吸を開けた後、赤い外殻をぱかりと開き、伸ばした翅を羽ばたかせ、
飛ぶ。見ている者は、その黒い斑点ほどのちいささではあるが、自分の悲しみ
をその虫が持ち去ってくれた、と思うことができる。
そして、それは、自分とは正反対だ、と彼は考える。彼は、
自分が背中を押すたび、陰湿で暗い影が周囲には増えていくように思えて、
ならない。
と、言うのである。
この「てんとう虫」は言うまでもなく七尾のことで、彼が他人の不運まで背負ってそれを昇華していることを言っているのだろうと思う(殺し屋のはずが、最初の頃の仕事で、図らずも彼は沢山の一般人を助ける結果となっているようだし)。それと同時に現代の殺し屋全般について語っている、とも取れる。
「マリアビートル」に出てくる殺し屋達は(少なくともこの作品内では)「グラスホッパー」とは異なり、誰一人「民間人」を手に掛けていない。結果、沢山の死体が積み上がることにはなるものの、「一般人」には大した被害もない。そして、槿はじめ「グラスホッパー」の殺し屋達と違って(そこに闇はあるはずなのに)皆、突き抜けるように明るい。槿の思いは、そう言った事を表しているようで興味深かった。
そして、もうひとつ。このある種能天気で人の良い殺し屋達とは対照的に、一見、模範的な市民予備軍のような優等生の王子の存在が、なんとも皮肉だと感じた。結局彼がどうなったのか、気にはなるけれど、それはまた別の話で知る機会があるかもしれない。
全体的に、伊坂幸太郎のお家芸的な、個人的には好きなタイプの伊坂作品でした。
これ単体でも十分楽しめますが、2作品(時代)の対比という意味でも「
グラスホッパー」から読む方が、数倍楽しめるのではないかと思います。
マリアビートル
伊坂 幸太郎
★★★★★
単行本:465ページ
角川書店(2010/9/23)
¥1,680
関連サイト
マリアビートル 伊坂幸太郎
http://www.kadokawa.co.jp/mariabeetle/
伊坂幸太郎ファンサイト「無重力ピエロ」
http://www.mtnk.net/
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