ルーブル展と同時開催のマグリット展も見てきました。これだけ多くのマグリットの作品をいっぺんに観れるのはちょっと珍しいかもしれない。有名な絵はほぼすべて揃っていたように思うし、なにより、これまであまり見たことのなかった、マグリットの模索中の作品が数多く展示されていたのが興味深かった。シュルレアリスムの絵画の、どこか無機質で冷たい感じがあまり好きはないのだけれど、なかなか楽しめる展覧会でした。
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さて、今日の本は貴志祐介の「新世界より」です。
内容紹介
1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた…隠された先史文明の一端を知るまでは。
久々にこんな長編を読みました。
1500頁というボリュームにもかかわらず
中だるみすることもなく、
一気読み出来たのは、やっぱり
この作品が面白いからだと思う。
映像化されたり人気の作品の
ようですが、それも納得の
ザ・エンターテインメントな作品でした。
舞台は今から1000年ほど未来の日本。
そこは呪力とよばれる
念動力(サイコキネキス)を持つ
人々によって築かれた世界。
現在とは異なり、
人々は小さな集落を形成し
豊かな自然に囲まれて、
素朴で牧歌的な暮らしを営んでいた。
そこは戦争はおろか、
いっさいの争いが
起こることのない平和な社会。
けれど、一見平穏に見える里は
秩序を守るための
多くの秘密を抱えている。
突然いなくなるクラスメイト。
「悪鬼」や「業魔」に
まつわる恐ろしい逸話。
子供を食らうと言われる不浄猫。
多くの禁忌によって守られ、
同時に排除されていく人々。
そこまでして人々が
守ろうとしているのは何なのか。
そして、真に恐れているものの
正体を知った時、惨劇の幕が
再び切って落とされる。
基本的にはSF的な設定、
でも、舞台となるのは
どこか郷愁を誘う、産業革命前の
日本の原風景のような水郷の里。
そして、ストーリー展開は
まるで少年少女の冒険小説のよう。
色んなエンタメ要素が
これでもか、というくらい
ぎっしり詰まっていて、
とにかく飽きさせない。
複雑なプロットの中でも、
特に注目すべきは、
この時代の人々のDNAに
組み込まれている「攻撃抑制」
と「愧死機構」という機能。
呪力という「神の力」を手に入れた
人類が、これまでの血にまみれた
歴史を繰り返さぬように
考案されたもので、
「攻撃抑制」によって、
いっさいの対人攻撃が不可能と
なるようプログラムされている。
さらに、「愧死機構」によって、
人を攻撃することを考えるだけで
無意識に呪力が発動し、
警告発作を起こす。
それでもなお攻撃を続けた場合には
窒息死、あるいは心停止を
引き起こす、というもの。
つまりは、人を殺めると
殺人者自身の潜在意識によって
自殺に追い込まれるわけである。
これによって、殺人はもとより、
物理的に人を傷つける好意は
基本的に不可能になるか
あるいは、少なくとも殺人者自身も
時間を置かず息絶えてしまうので
結果、争いのない(あるいはもし
起こったとしてもすぐに終結する)
平和な社会が形成可能となる
...はずだった。
けれど、突然変異によって、
この両方が機能しない人間が現れた時、
皮肉にも、この2つの機能のせいで
人間はこの上なく無防備な
状態となってしまう。
プロットとしては一見、
よく出来たパラドックスなのだけれど
ここまでの遺伝子操作が可能な
社会であれば、なぜ「自己防御」
あるいは「正当防衛」という
生物には必要不可欠な本能を、
付与しておかなかったのか、
あるいは付け加えようとしないのか
甚だ疑問ではある。
まぁ、それが備わっていれば
そもそもジレンマが生じることがなく
この小説自体成り立たないので
致し方ないのだけれど。
読み進むうち、呪力なんていう、
人が「持つべきではない力」を
いっそ潔く手放してしまえば
すべてが丸く収まるんじゃないのか、
私にはそんな風に思えて、
そしてなんとなく、そんな終結を
期待しつつ読んだのだけれど、
残念ながら、たとえそれが、
いずれは自らを破滅に導く
ことになろうとも
人は一度手にした便利な力を
手放すことは出来ないのだろう。
ちょうど、私達現代人が電力を
手放すことが出来ないのと同じように。
全く現実味のない物語なんだけれど、
なんだか身につまされる思いがした。
この作品を、★5つと
しなかったの理由はすべて、
細かいことばかりなのだけれど
個人的に、どうしても主人公の早季が
好きになれなかったことが1つ。
魅力的な登場人物というのは
本作のようなSF・ファンタジー系の
小説には必要不可欠な要素
ではないかと思うのだけれど
残念ながら、誰一人として、
惹かれるキャラクターが
存在しなかったのは残念だった。
また、多く登場する冒険のシーンが
ほぼすべて早季と覚の2人の
独壇場であるため、もう一人の
キーパーソン、瞬の存在感が
どうしても霞んでしまい
後半、感動的になり得たシーンが
いまひとつ響かなかったのも残念。
前半にもう少し、瞬との
エピソードが欲しかったように思う。
面白い小説であることは
間違いないのだけれど、
いまひとつ心に響くものがない、
というと少し辛口すぎるか。
でも、何かが少し足りない、という
印象が最後まで拭えなかったのも事実。
まぁ、そんなの全部ぶち込んでいたら
かえって中だるみしてしまって
テンポの悪い作品になるのかも
しれないので、このくらいの
ボリュームに抑えたのは
やっぱり正解なのかもしれない。
複雑そうで、意外と簡単に
サクサク読めるので
このボリュームに臆せず、
是非手にしてみてください。
一気読み必至の作品です。
新世界より
貴志 祐介
★★★★☆
新世界より (上)
文庫:488ページ
講談社 (2011/1/14)
¥788
新世界より (中)
文庫:448ページ
講談社 (2011/1/14)
¥756
新世界より (下)
文庫:560ページ
講談社 (2011/1/14)
¥864
関連サイト
作家の読書道:第77回 貴志祐介さん | WEB本の雑誌
http://www.webdoku.jp/rensai/sakka/michi77.html貴志祐介先生インタビュー - テレビ朝日
http://www.tv-asahi.co.jp/shinsekaiyori/interview/
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