下を向いてぼんやり歩いていたら、急に眼に飛び込んできた生首たち!思わず「ぎゃっ!」と叫びそうになったよ...。
近所の美容院が燃えないゴミをだしていたらしい。あー、びっくりした。透明袋も考えもんですね(笑)。とか言いつつ、しっかり写真をぱちり。
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さて、今日の本は、梨木香歩の「村田エフェンディ滞土録」です。
内容紹介
時は1899年。トルコの首都スタンブールに留学中の村田君は、毎日下宿の仲間と議論したり、拾った鸚鵡に翻弄されたり、神様同士の喧嘩に巻き込まれたり…それは、かけがえのない時間だった。だがある日、村田君に突然の帰還命令が。そして緊迫する政情と続いて起きた第一次世界大戦に友たちの運命は引き裂かれてゆく…爽やかな笑いと真摯な祈りに満ちた、永遠の名作青春文学。
※「BOOK」データベースより
先日読んでいたく気に入った「家守綺譚」の中で
名前だけ登場していたトルコに留学中の村田の物語。
異国情緒あふれる、100年前のトルコに留学中の
村田の生活を、現地での出会いや不思議な出来事、
多種多様な歴史や文化などを織り交ぜて描いている。
1篇、7~8ページの全18篇から成る短編集で、
各逸話が短いながら読み応えたっぷりで
飽きずに最後まで読み進めるのは「家守綺譚」と同じ。
それにしても、ほんの230ページ程度に、よくもまぁ、
これだけの内容を無理なくまとめ上げれたもんだと、
とにかく賞讃するほか言葉がない。
普通だったら、「詰め込み過ぎじゃないの?」
と思うくらい、スタンブールの情景、歴史、宗教、国家
異なる文化について、等々、一筋縄ではいかない
時に、否定的というか、一方の視点に偏りがちなテーマを、
気負わず、村田の素直で寛容な目線から描いているのが好ましい。
そのまんま、人種のるつぼである街を凝縮したかのような
村田の下宿の人々が、それぞれの文化を象徴するかの
ように個性にあふれていて、魅力的だ。
それぞれに異なる国や文化、宗教観や思想を持ち、
皆、正直理解できない部分を持ちながらも、
お互いに尊重し合い、反目し合いながらも絆を深めていく。
そして、人だけでなく、その時代も出身も様々な
神々もまた、この下宿に集い、騒ぎを繰り広げるのが面白い。
特に、私達日本人からするとエキゾチックな原始の牡牛の神や
エジプトのアヌビス神と、日本のお稲荷様が
追いかけっこをしたり、なにやら頭を突き合わせて
相談したり... なんて、想像するとなんだか可愛らしくて、
思わずくすり、と笑いがもれる。
神様に対して失礼かとも思うけど仕方がない。
そんな楽しいエピソードを、そこかしこに散りばめつつ
物語の根底にある、より深いテーマとのバランスも絶妙。
例えば、十話の「馬」では、下宿人の1人であるディミィトリスが、
富が人を堕落させていくと語る。
古代ギリシャやローマ帝国のように、国家は、勃興、成長、
成熟、爛熟、腐敗、解体というサイクルを、いったい
いつまで繰り返すのかと嘆き、村田に
「西の豊かで爛惰な退廃の種を、君たちが
持ち帰らないようにすることだ。」と助言する。
それに対し、村田は思う。
豊かな退廃など、私は今の日本に想像すら出来なかった。祖国が少しでも豊かになって欲しいとの思いで必死、いつ来るか分からぬ危険な豊かさへの懸念など、まるで寄せ付けなかったのだ。
今、日本はどの段階にいるのだろうなと、ふと思う。
そして、ディミィトリスは「西の退廃」と呼ぶけれど、
別にこれは西から来たものではないだろう、とも。
「歴史は繰り返す」。あまりに有名な言葉だけれど、
こうやって100年前に起こった(のかもしれない)
出来事に思いをはせると、時代や国は違えど
すべてが繋がっているのだな、という気がしてくる。
本書でも語られているように、現代の私達は本当に歴史から
「学んで」いるのだろうか、と少し疑問に思いながら。
同時にそうであって欲しいと願いながら。
他にも多々考えさせられる事柄が登場するけれど、
すべて押しつけがましさや面倒臭さを全く感じさせず、
とても自然に物語の一部として存在していて
すんなり頭の中に入り込む。
なので、そんな難しいことは考えず、異国情緒あふれる
楽しくも悲しい青春物語として読むのも良し、
脈々と続く歴史をとおして、現在の日本、そして世界情勢まで、
思いを巡らせるのもまた良し、ある意味、「家守綺譚」とは
真逆な意味で何度でも読み返したくなる深い作品だと思う。
小説の最後で、村田の元に送られてくる鸚鵡。
下宿でいつも絶妙な合いの手を入れ、場を和ませてくれた、
まるでシニカルな哲学者みたいな鸚鵡との再会に、最後は涙がこぼれた。
村田エフェンディ滞土録
梨木 香歩
★★★★★
文庫: 238ページ
角川書店 (2007/05)
¥500
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