この本読んだら絶対ケーキが食べたくなります。それも出来ればちょっと良いものを。
とか言いつつ、これは割と近くにあるパティスリーのもの。お値段もほどほどで美味しいんですよ~。この手前お苺のタルト、堪りません。名前忘れたけど(笑)。
誕生日やクリスマスなんかはここのケーキを買います。焼き菓子もあるのでお持たせにも重宝しているお店です。
Symphony Nagano
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さて、今日の本は上田早夕里の「ラ・パティスリー」です。
内容紹介
坂の上の洋菓子店へようこそ!甘くほろ苦いパティシエ小説誕生。ある日突然現れた謎の菓子職人・恭也と新米パティシエ・夏織。二人の交流を通じて描く洋菓子店の日常と、そこに集う恋人・親子・夫婦たちの人間模様―。
※内容紹介より
またまた食べ物系(笑)。パティスリーのお話ということで、軽いタッチのものを想像していたのだけど、ちょっと違った。フランス菓子店の話だからといって、小説までもが甘くてファンシーとはいうわけではないようです。見た目華やか、でも重労働なお菓子職人(働きぶりを読んでいたら、パティシエ、なんてファンシーな単語より、こっちのがしっくりくるよ)を描くと、ふわふわしたお話にはならないのかも。登場人物はお菓子と違って意外にも割と辛口な印象だった。
新米パティシエの夏織がある朝店を開けると、厨房には見たことのない菓子職人がいて、自分はこの店のオーナーシェフだと言う。恭也と名乗るこの男、どうやら記憶障害を抱えているらしいが確かな腕を持つ職人。期間限定でお店で働くことになり...。
恭也の正体を中心とした、ミステリーなのかと思っていたら、メインは新米パティシエのわりと真面目な成長物語だった。恋愛的な要素もなくはないがおまけ程度、と思って良い。
普段あまり耳にすることのないお菓子業界の内情がとても丁寧に描かれていて興味深い。関西、特に神戸六甲~西宮エリアの洋菓子店激戦区を知っている人にとっては、へえぇ~、と思えるディテールが沢山詰まっている。
例えば関西と東京の洋菓子の違いや、パティスリーの経営について、そして現場の激務と職人達の絶え間ない努力など、知らなかった裏側が見れて引き込まれた。もちろん、菓子作りの工程や、ケーキの描写などはよだれモノ。(作中出てくる特注のチョコレートムースのケーキ、食べたすぎる!)
本書の舞台となる「ロワゾ・ドール」はフランスのお菓子専門店で、「洋菓子店」とは一線を画す、らしい。それに対して「洋菓子」というのは、色んな国のお菓子が混在して、日本風にアレンジされたもの、というような分類になるようだ。日本の「洋菓子」について、こんな風に語っている。
"洋菓子"という日本固有のジャンルはしたたかだ。イタリア菓子が流行すればイタリア菓子の、フランス菓子が流行すればフランス菓子の良いところを取り入れ、完全にオリジナルのケーキを作ってしまう。
ティラミスとザッハトルテとクレーム・ド・ブリュレを並べて売ることに何の抵抗も覚えない。それが日本流だ。むしろ、客もそのことを歓迎する。
仰る通り、である。大体、太古から独自の信仰である神道に外来の仏教を融合させても大した違和感を覚えない国民なんだから、外国ものの洋菓子くらい(失礼!)何の抵抗もなくまぜこぜにするでしょう。私はそういう日本人が結構嫌いじゃないよ。柔軟で良いじゃないか、と思っている。海外で恥かかない程度に、これが日本独特のものだってことは知ってた方が良いかもだけど。
とはいえ、職人側に立てば、こだわりを持ちたくなるだろうとは思う。本書はフランス菓子店が舞台なのだから余計にそういう傾向が感じられるのは無理もない。けれど、この作品では決して「洋菓子」を軽くみている訳ではない。私は客目線でしか語れないけれど、たまには華やかで気取ったお菓子もいいけど、やっぱり自宅使用の気取らない「洋菓子」の需要はなくなるはずがないから。
そんなお菓子の雑学的な要素も盛りだくさんで、最後まで飽きることなくすらすらと読んだのだけれど、読観終わって少しして、なんだか「あれ?」という気になった。悪くはない。決して悪くはないのだけど。
なんというか、恭也の記憶障害云々というミステリの謎解きが強引で他の部分とちぐはぐな感じ、そして恋愛部分に関してはとても中途半端な印象が残る。肝心の後半が、なんだかしっくりこないのだ。いっそミステリも恋愛要素もなくすか、もう少し丁寧に描くか、どちらかにして欲しかったように思う。
この際、ミステリーは捨てて、前半登場した、客の記憶に残っているだけのケーキを再現したり、親子関係の修復(といえるのかな?)するエピソードみたいなものを中心に据えた方が、記憶障害云々という無理のあるミステリーより良かったのでは?という気がしなくもない。
実は、今回私は単行本を読んだのだけれど、文庫の出版に際して、大幅に改稿されているらしい。「大幅に」というこは、作者自身もどこか納得いかない部分があったのかもしれない。どんな風に変わったのか、ちょっと興味がわいてきたので、後で読み比べてみたいな、と思う。
そして、そこで何か新たな発見があれば、改めて紹介したいと思います。
美味しそうなディテールたっぷりなので、ケーキを用意してから読むことをお勧めします。
ラ・パティスリー
上田 早夕里
★★★☆☆
単行本:261ページ
角川春樹事務所 (2005/11)
¥1,680
関連サイト
上田早夕里・公式サイト
http://www.jali.or.jp/club/kanzaki/s/
上田早夕里 (Ued_S) on Twitter
http://twitter.com/Ued_S
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