今日は瀬尾まいこの「強運の持ち主」を読みました。主人公はなんと、占い師。
私はあんまり占いとか信じてなかったりします。別に嫌いとかいうのでもなく、雑誌とかに載ってるのは一応目を通すのだけど、良い内容でも悪い内容でも、雑誌を読み終えた時にはすっかり忘れてたりします。いいことが書いてあれば普通に嬉しいし、悪いことが書いてあっても、はなっから当たるとは思っていないので、すぐ忘れるという、まぁお手軽な性格です。
でもお金を使ってまで占いに頼ることって、ないなぁ...。
内容紹介
元OLが営業の仕事で鍛えた話術を活かし、ルイーズ吉田という名前の占い師
に転身。ショッピングセンターの片隅で、悩みを抱える人の背中を押す。父と母
のどちらを選ぶべき?という小学生男子や、占いが何度外れても訪れる女子高
生、物事のおしまいが見えるという青年…。じんわり優しく温かい著者の世界が
詰まった一冊。
※「BOOK」データベースより
時給の良さに惹かれてバイトで占い師を始めた「私」は、ルイーズ吉田と名乗っているが、吉田幸子といういたって普通の名前を持つ元ただのOL。師匠であるジュリア青柳は、占いについて、「当たるも八卦当たらぬも八卦」をモットーにしており、「結局適当なことを言って、来た人の背中を押してあげるのが仕事なのよ」と言う。
つまり、主人公はインチキ占い師に限りなく近いわけだけれど、そもそも、では本物の占い師とは、と尋ねられてもそんな定義は存在しないので、特に非難する気にはならない。そもそも占いって、ある種カウンセリングのようなもので、人に自分の悩みやらを聞いてもらってすっきりする、というところがあるんじゃないかと私は思っている。
なので、この「来た人の背中を押してあげるのが仕事」というのは、とても正しい認識ではないかと私なんかは思う。逆に、私の占いは正しいのだから、言うとおりにしないと地獄に落ちるわよ、みたいなのは、たとえどんなに当たる占いだったとしても、大間違いなんじゃないかと思う。
物事の終わりが見える、という不思議な能力を持つ武田くんに、おしまいを宣告されたルイーズが言う言葉が、この小説の中での占いというものをうまく表していると思う。
いくら正しいことでも、先のことを教えられるのは幸せじゃないよ。占いに
したって、事実を伝えるのがすべてじゃない。その人がさ、よりよくなれる
ように、踏みとどまっている足を進められるように、ちょっと背中を押すだ
け。占いの役割って、そういうことなんだよね。
そんな風に考えるルイーズだけれど、占い自体は信じているようなところが面白い。現在同棲中の恋人との慣れ染めがそれを物語っている。付き合っていた彼女に連れられてルイーズの占いに来た冴えない男を占ってみて、彼が稀に見る「強運の持ち主」であることを知ったルイーズは、占いにかこつけて、当時付き合っていた彼女と別れることをすすめたり、ありとあらゆる手を使って彼を手に入れるのである。
これだけ聞くとえげつない女、と思うところなんだろうけど、これがなんともあっけらかんとしていて、全く計算高さを感じさせないのが瀬尾まいこらしい。察するに、きっかけや動機がなんであれ、結局お互いが好きだと思ったことがすべてなんだろう、ということが徐々に分かってくる。実際、タイトルにもなっているこの「強運の持ち主」の通彦は、付き合って2年経ってもその才能の片鱗を見せることなく、毎日変てこな料理をしながら、のんきに日々過ごしているだけである。それでもルイーズはそのことを不満に思うことはない。
この二人のな~んてことのない日常が、ほのぼのしていてとっても素敵なのだ。瀬尾まいこの作品には、食事のシーンがよく登場するけれど、この作品も例に漏れず、ルイーズと通彦の食事シーンが頻繁に出てくる。クリームシチューにちくわ、とか、カレーに葛きり、チャーハンにアボカド等々、あまり美味しそうではない変な夕食を作る通彦と、びっくりしつつもちゃんとそれを食べるルイーズのやり取りが、微笑ましくて、「好き」とかそんな言葉なしに、この二人が良い関係を築いていることがとても良く伝わってくる。変てこな料理がなんだか美味しそうに思えてくるほど、読んでいるこちらまでほんわかしてしまう。
ストーリー自体は、特にどうってことはないのだけれど、読んでいて「ほっこり」出来る本でした。あえて言うなら、1人で働く方が気楽で良い、と思っていたルイーズが、誰かと働きたい、と思うようになる心の動きが、いまひとつ唐突だったように思うことと、「強運の持ち主」のはずの通彦の才能について、なにかしらの答えらしきものが欲しかったかな~、という気がしないでもない。いや、でもこれは、そんな才能があるのかないのか、わからない方が通彦らしくて良いような気もするから、やっぱりこのままでいいのかな。
強運の持ち主
瀬尾まいこ
★★★☆☆
単行本: 224ページ
文藝春秋 (2006/05)
¥1,300
文庫: 262ページ
文藝春秋 (2009/5/8)
¥520
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