考えてみると南の島って行ったことがない。テレビや写真で頻繁に目にするうちに、なんだか行ったことがある気すらしてくるから危険だ。屋久島とか種子島、今日読んだ本の奄美大島には一度行ってみたいな~、とは思いつつ未だ果たせず。考えてみると暑いのが苦手だから無意識に避けていたのかも...。
写真は何の関係もないニューオーリンズのプランテーションハウス。本に出てきた薩摩藩の圧政状態が、なんとなく植民地っぽいな、と思ったので、昔の写真を引っ張り出してみた。でも当時の奄美の郷士達はプランテーションオーナーほど、裕福でも力があったわけでもなく、それもまた哀しい。
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さて、今日は遠田潤子の「月桃夜」を読みました。
元ちとせ等の登場で少し知名度が上がったとはいえ、沖縄(琉球)の影に隠れてか、いまいち認知度が低い気がする奄美大島の歴史。少し興味を持ちました。
内容紹介
想いは人知れず、この世の終わりまで滾り立つ―。死んでもいいと海を漂う
茉莉香に、虚空を彷徨う大鷲が語りかける。熱く狂おしい兄の想いを、お前
はなかったことにできるのか?かつて二百年前の奄美にも、許されぬ愛を望んだ
兄妹がいた…。苛酷な階級社会で奴隷に生まれた少年は、やがて愛することを
知り、運命に抗うことを決意する。第21回「日本ファンタジーノベル大賞」
大賞受賞作。
※「BOOK」データベースより
生と死の狭間を漂う現代の少女茉莉香の元に、200年前の奄美大島に生きた少年の化身である大鷲が舞い降りる。生か死か、海に任せて裁きを待つ茉莉香に、大鷲が自身の過酷な生涯を語る。
江戸末期、薩摩藩の圧政の下にあった奄美大島、ヤンチュと呼ばれる奴隷のような身分の少年と少女の悲恋の物語を綴る「島のはなし」と、現代の茉莉香の「海のはなし」を交互に織り込んで、物語は効果的に流れる。
まるで近親相姦もののような紹介文になっているけれど、フィエクサとサネンは実際のところ兄妹ではない。幼い頃に両親を亡くしたフィエクサが、同じく両親を亡くしたばかりのサネンと知り合い、「お前の兄になってやる」と山の神に誓うことから、二人はまるで本当の兄妹のように育つ。この誓いが、後に自分達自身を追い詰めていくことになるとは知らずに。
ストーリーの大筋自体は、それほど珍しくもない悲恋ものである。けれど、舞台である奄美大島の歴史や風習、虐げられる民の悲惨な生活など、その独特の世界観が圧倒的な筆力で描かれていて、時代物、それもあまり馴染みのない土地の話なのに一気に読ませる。
そして、神様の存在感が独特である。なんというか、凄く不条理、なのである(いや、神様からすると、とても筋が通っているのだけど)。でも人を超越した存在、というのは、実際こんなものなのかも知れない、としみじみ思った。あんた神様なんだから、そこのところ、きちんと汲み取ってよ、と唯の人間の私なんかは思うのだけれど、神様だからこそ、人の「思い」なんて理解できる訳がない、といったところか。人が蟻の思いを理解できないようなものなんだろうけれど、残酷ではある。とはいえ、もちろん山の神様には悪気はない(と思う)。いや、むしろとても律儀に皆の望みを叶えてさえいる。こういった、細かな伏線が敷かれていたことに、最後になって気付き、驚いた。ただの悲恋物語、と侮ってはいけない。
物語の最初、ヤンチュがいなくなれば、この世はマシになると信じていたのに、200年経った今でも、世の中は何も変わらないのか、と失望していた大鷲だったけれど、最後に、生きる選択肢を持たなかった過去の奄美大島の若者達とは対照的に、生死を天の采配に任せると思いつつも、そこに選択肢を持つ茉莉香の姿には希望があるように思った。ゆっくりとではあるけれど、世の中良くなってきているはずだと。そして、同時に普遍のものの中にも希望がある。
大鷲の最後の言葉が心地よく響く。
「お前も一粒の椎だ」
大鷲が待ち望んでいる「この世の終わり」なんて絶対に来て欲しくないけど、そこにさえ希望があるように思えるから不思議だ。
この本、夜を徹して読むのをお勧めします。夜明け頃に読み終えるくらいのタイミングがベスト。後はしんどいけど(笑)。
月桃夜
遠田潤子
★★★★★
単行本: 280ページ
新潮社 (2009/11/20)
¥1,470
関連サイト
第二十一回日本ファンタジーノベル大賞 選評
http://www.shinchosha.co.jp/prizes/fantasy/21/selection.html#contentAnchor1
遠田潤子『月桃夜』|書評/対談|新潮社
http://www.shinchosha.co.jp/shinkan/nami/shoseki/319831.html
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