紅葉がとても綺麗だったので、もう一枚。これは深紅に色づいた楓。まさに、燃え上がるような紅。昔、植物学のクラスで、紅葉のメカニズムについても習った記憶はあるものの、ほとんど覚えていない。結構好きな講義だったんだけどな。そもそも、化学的にどういったことが起こっているのか、理屈では理解できても、実感として何が起きているのか、やっぱり分からない。
なので、目の前にある綺麗なものを、とにかく愛でることにしよう。
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さて、今日の本は荻原浩の「あの日にドライブ」を読みました。
以前、がろんさんにコメント頂いて、お勧めとのことだったので、遅ればせながらようやく読み終えたので、感想を書いてみたいと思います。
内容紹介
牧村伸郎、43歳。元銀行員にして現在、タクシー運転手。あるきっかけで
銀行を辞めてしまった伸郎は、仕方なくタクシー運転手になるが、営業成績
は上がらず、希望する転職もままならない。そんな折り、偶然、青春を過
ごした街を通りかかる。もう一度、人生をやり直すことができたら。伸郎は
自分が送るはずだった、もう一つの人生に思いを巡らせ始めるのだが…。
※「BOOK」データベースより
元エリート銀行員の伸郎は、上司に対するある一言が原因で銀行を辞めるはめになり、「やむを得ず」タクシー運転手になる。自分を過大評価し、ドライバー仲間を見下し、そのくせ引け目から妻や子供達ともうまくコミュニケーションが取れない。「どこで人生の選択を間違えたのだろう?」「あの時こうしていれば...」という誰でもが一度は思い浮かべる疑問と願望を思いついた時から、その妄想に取りつかれ始める。
面白いのは、伸郎が自分の過去を空想の中で辿るのと同時に、実際にタクシーを走らせて、その場所に訪れる、というところ。これがタイトル「あの日にドライブ」の所以なわけだけれど、バーチャルな妄想世界と現実世界の境目を曖昧にする上で、実に効果的である。
そして、過去の思い出の場所をドライブするうちに、皮肉にもタクシー運転手としての様々なコツを掴んでいく。全くの妄想世界に遊びつつも、しっかり現実社会にも適応しているところが、なんとも皮肉であり、それでいて現実的だ。
「時計の針を戻せたら」という思いは、ほとんどの人が経験したことのある苦い思いではないかとは思う。けれど、この考え方は男女で随分差があるのではないか、と、この本を読んで改めて思った。ある意味、伸郎の考え方はとても男性的な思考だと思ったのである。女が過去のやり直しを考える場合、きっと、全く違った筋書きを妄想するのではないか、と。まぁ、もちろん人によって個人差はあるだろうけれど、例えば伸郎のように、別れた恋人との将来を思い描くことはまずないだろうと思う。男の恋愛は別名保存、女の恋愛は上書き保存とはよくいったものである。
女の場合、昔の恋人と、と考えるのではなく、ごく自然に全く別の人と出会いたい(あるいは片思いで終わった人ともう一度、とかはありかも)と考えるのが自然な気がする。あくまでも、現在の恋人なり夫なりに不満があると仮定して、ではあるけれど。ようするに、女は一度別れた相手とどうのこうの、という発想にはなりにくい思考回路を持っているように思う。もちろん、例外はあるけれど、私の周りはそう言った意見の人が多い。そのあたりが、この本を読んでいて興味深いなとまず思った。
そして、センチメンタルな妄想の果てに突き付けられた苦くもシニカルな現実がなんとも可笑しくて切ない。まぁ、現実にはここまで明らかな落差を目にすることはないのだろうけど、結局、何が良かったのかなんて、いくら「たら」「れば」を繰り返しても誰にもわかりはしない。だから、考えないのが一番かというと、それも寂しいような気がする。
後悔することは決して精神衛生上好ましくないけれど、「たら」「れば」を全く思い浮かべることのない人生というのも、ある意味味気ないのではないかと思う。それでは、まるで自分の人生の選択肢が最初からなかったみたいじゃないか。
なので、丁度良い具合に自分の妄想世界を楽しめればそれが一番かなと思う。もちろん妄想から覚めた時に落ち込まない程度に楽しみたい。妄想は、ほぼシュミですね。こうなると。
妄想(とその現実)の果てに、冷静に現在の自分を見つめ始める伸郎。馬鹿にしていた同僚達の過去や、家族の気遣いなどに思い至るにあたって、等身大の自分自身にも気付き始める。
そして、伸郎にとって最後の「過去」である元上司を乗せて走る、最後のシーンがなんとも清々しい。これまでのどこか滑稽な妄想や、読んでいてイライラさせられる虚栄心ゆえの卑屈さの全てがきれいさっぱり浄化されるような爽やかな読後感を残してくれた。
車を走らせながら、彼は思う。
その先に何があるかわからない。だから道は面白いのかもしれない。
自分の通ってきた道は、結局間違っていなかった、などという気はさらさら
ない。間違ってばかりだった。
曲がるべき道を、何度も曲がりそこねた。迷ったし、遠回りもした。
でも、どっちにしたって、通りすぎた道にもう一度戻るのは、ちっとも楽しい
ことじゃない。
そして、最後に彼が見る菜の花畑。とても素敵だと思った。
あの日にドライブ
荻原 浩
文庫: 350ページ
光文社 (2009/4/9)
¥650
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